【レポート】教科書読書会 中3①『握手』(井上ひさし)

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↓に、読書会で話題になったテーマを場面ごとに整理しました。
読みたい場面をクリックしてください 例:ルロイ修道士は本当に、死期が近いことをわたしに隠そうと思っていたのか? p14
アコーディオンのように文章が展開して読めるようになります。

■主催者の感想…個人的に一番面白かったのは、指言葉は、実はLINEスタンプと同じ役割をしてるんじゃない?という意見でした。

教科書に書いてあることは自分の生活と繋がってるって、実感してくれたら嬉しいな!

ルロイ修道士は本当に、死期が近いことをわたしに隠そうと思っていたのか? p14

p22の9行目で、ルロイ修道士が「わたし」に死期が近いことを悟られて
「ルロイ修道士は少し赤くなって頭をかいた」
って書いてあるよね。
つまり、ルロイ修道士はp22まで、自分の死期が近いことを「わたし」に隠そうとしてたってことだよね。

うん、そうだね。

でも、僕は必ずしもそうじゃなかったと思うんだ。
ルロイ修道士って、嘘をつくのが苦手な人だったんじゃないかな?

そうなの?

うん。理由はpP14の9行目「さよならを言うために、こうして皆さんに会って回っているんですよ」の部分。
これって、半分本当のことを言ってるじゃん?

こういう言い方って、自分でもすることない?
たとえば友達グループで話してて途中で帰りたくなった時、「塾の宿題が残ってるから今日はもう帰るね~」(←10分くらいで終わる量だけど、宿題が残ってるのは本当)みたいな言い方をしたり。

確かにあるかも(^^;
純度100%の嘘をつくのって罪悪感があるから、嘘の中にちょっとだけほんとのことを混ぜるってあるよね。

「だが、顔をしかめる必要はなかった」2回目の握手で気づいたことp16

これ、心憎い書き方だって思うな~。

なんで?

だって「ルロイ修道士は病人の手でも握るようにそっと握手をした」だよ?
普通に「ルロイ修道士はそっと握手をした」って書いても伝わるのに、わざわざ「病人の手でも握るように」っていう比ゆを使ってる。
これって、「匂わせ」だよね。

あ~、そうだね!これ、作者が匂わせてるよね。
読む人に、「『私』じゃなくて、実はルロイ修道士の方が病気なのでは…?」って予感を感じさせようとしてるよね。
そして読み進めていく中で、予感が少しずつ確信に変わっていく…

物語のドラマ感を演出してた表現だよね~。

「日本人は先生に対して、ずいぶんひどいことをしましたね」について p17

「わたし」が
「日本人は先生に対して、ずいぶんひどいことをしましたね(中略)申し訳ありません」と言ったことに対して、
ルロイ修道士が
「総理大臣のようなことを言ってはいけませんよ。だいたい、日本人を代表してものを言ったりするのは傲慢です。それに、日本人とかカナダ人とかアメリカ人といったようなものがあると信じてはなりません。一人一人の人間がいる、それだけのことですから」と返したシーン。

これ、すごく共感できるなぁ。
一人ひとりの個性を無視して「日本人」「男」「女」みたいにひとくくりにされて嫌だったこと、たくさんの人が経験してるんじゃないかな。

分かるかも。
私ファッションやアイドルとかに興味なくて全然知らないんだけど「そんなことも知らないの?」みたいに言われたことがあるんだ。
女子だからイケメンが好きとかお洒落好きだとか、そんなの人によるでしょ!って思ったことがあるなぁ。

僕は朝礼とかで全体注意されるのが嫌だなぁ。誰かが問題を起こした時にみんなが怒られるやつ。連帯責任とかも。
「この中学校の生徒として~」みたいに言われるんだけど、僕には関係ないじゃん!悪いことした人だけを怒ってよ!って思う…

そう考えると、ルロイ修道士は理想の先生なのかもね。
ちゃんと一人ひとりの好きなこととか、考えを大切にする人なのかも。

「仕事がうまくいかないときは、この言葉を思い出してください。『困難は分割せよ』」についてp20

「わたし」が「これでは、遺言を聞くために会ったようなものではないか」って言ってるよね。
どうしてルロイ修道士のこの言葉が「遺言」だと思ったんだろ?

それは「言外の意味」がこの言葉から感じられるからなんじゃないかなぁ。

言葉の外にある意味、ってこと?

うん。
たとえば「仕事がうまくいかないときは」って、この前に(もしこの先私がいなくなってから)っていう言葉が入っててもおかしくないと思うんだ。

「困難は分割せよ」ってさ、つまり、自力で解決しなさいって意味だよね?
でも、自分がルロイ修道士の立場で、もし病気じゃなかったら「困ったらいつでも電話してください」って言うと思うんだ。

そう言わないで「仕事がうまくいかない時は、この言葉を思い出して(自力で)頑張ってください」って言うということは…つまり、「もう会えない」ってことだと思うんだよね。
そういう「直接言葉には表れてないけど、何となく感じられるメッセージ」を「私」が感じ取ったから、遺言みたいだって思ったんじゃないかな。

「ルロイのこの言葉を忘れないでください」っていうのも、(もう直接助けてあげられないけれど…)っていう悲しさとか、悔しさが感じられる気がするなぁ。

そう言われると確かにそうかも。
「困難は分割せよ」っていうの、明らかに「今日言うぞ!」って用意してきたフレーズだもんね。
そうとう気合入ってる。
ルロイ修道士が「わたし」に聞かせる最後の授業、って考えたらつじつまが合うかも。

もしかしたら、今まで会ってきた天使園の他の卒園生たちみんなに「困難は分割せよ」
って伝えてるのかも
しれないね。

ルロイ修道士にとって「いっとう楽しいこと」が上川君の話なのはどうしてか? p21

「わたし」に「楽しいこと」を聞かれて、ルロイ修道士は上川君の話をしてるよね。
なんで上川君のことが「いっとう楽しい」って言ってるんだと思う?

やっぱり、自分の教えた子が成長した姿を見ることが嬉しいからかな?

もちろんそれもあると思うんだけど、私は指言葉が関係してると思うんだ。
学校の授業でも先生が言ってたけど、この物語は握手とかボディーランゲージが鍵になっているし、この場面でも上川君が指言葉を使ってる。
作者がわざわざ書くってことは、この指言葉に意味があると思うんだ~。

指言葉の意味かぁ。
そう考えると…これってつまり「内輪ネタ」ってことなのかも。
好きな漫画とか友達同士でしか通じない話とか…そういう「内輪でしか通じないネタ」って、普通の言葉よりも面白さや親密感が感じられることってあるよね?

そうそう。
私お笑いが好きなんだけど、ナイツの野球漫才とかまさにそんな感じなんだよね。
■ナイツ – – – 「野球寿限無」/『ナイツ独演会』1:00~2:30(YouTubeリンク

ラミレスがコーチの愚痴言うわけないだろ!

それと「言葉でうまく表せない想いやニュアンス」っていうのがあるんだと思う。
わたし人に説明をすることが苦手で言葉に詰まっちゃうことが多いんだけど、そういう時には身振りや手振りでカバーしたりするんだ。

うんうん(うなずく)。
この「うなずき」も、「あなたの意見に賛成だよ」っていう思いを伝える動作だったりね。

上川君も、ルロイ修道士がバスに乗ってきた時に「おはようございます」とか「お元気ですか?」とか言葉で声をかけることもできるよね。
でも、そういう言葉じゃ(ルロイ修道士のまねをして)親指をぴんと立てた時に伝わるような想いやニュアンスを、全然伝えきれない。

二人の間だけで通じる指言葉は、たった一つの合図でこれまで何十年も一緒に過ごしてきた思い出とか、親しみとか、愛情とか…そういうもの全部を詰め込んで伝えることができる。
だからルロイ修道士は上川君のエピソードを「いっとう楽しい」って言ってるんじゃないかな?

すごい…そう考えると、ここってめちゃくちゃ熱い友情の場面なのかもしれないね。
ロマンチックだな~。

『握手』にはどうしてこんなに指言葉が出てくるのか?(指言葉はLINEのスタンプと同じなのでは?)

Iさんの意見、すごく刺激になったな~。
指言葉の意味が「うまく言葉で表せない想いやニュアンス」を伝えるためのものだとしたら、ものすごく身近な例があるよ。
僕やIさんにも関係ある。

どんな例?

この物語の指言葉の役割って、LINEのスタンプと同じだと思わない?

どういうこと?笑

たとえばさ、上川君の場面。
ルロイ修道士がバスに乗ってきた時に「おはようございます」なんて言わないだろうっていうのはさっき言ったよね?

うん。二人の仲を考えたら、そんなかしこまった言い方はしないよね。
なんか適切な言葉が見つからないから、(*´ω`)b ってするんだと思う。

それ、LINEでも一緒じゃん?
たとえば友達を家で待ってる時、「今から行くけどついでに借りてた漫画持ってくわー」ってLINEがきたら、文字で「ありがとう。」とはあんまり返さないじゃん。

あー、確かに。
たいていはスタンプで返すね。

それは何でかっていったら「文字だと堅苦しいから」じゃない?
「ありがとう」って文字で送るほど遠い間柄じゃない。でも、それ以外の「2人の距離感にちょうどいい言葉」が見つからない。だから…

スタンプ=文字以外の方法で気持ちを伝えるのね。

そう。
だから、ルロイ修道士や天使園の卒園生たちにとっての指言葉は、僕たちにとってのLINEスタンプと同じなんだよ。

最初は何のことかと思ったけど、そう言われると納得感あるなぁ。

指言葉は「キャラ出し」説

ところで、LINEのスタンプって送る人のキャラが出るよね。

うんうん。
Iさんはゆるい感じの鳥が好きだから、ぴよこ豆とか毎日でぶどりとかよく使うよね。

君はうさまるとか、かわいいのが好きだよね笑
これと同じで、指言葉は『握手』の中でキャラ出しに使われてるんじゃないかな?

漫画とかでよくある「キャラを立たせる」ってやつ?
たとえばやんちゃな主人公キャラとか、クールな無敵系とか、眼鏡をかけてて頭がいいとか。

そうそう。
私さ、『握手』を読んで、ルロイ修道士は「かわいいおじいちゃん」って感じがしたんだ。
昔の教え子たちと話す時、嬉しそうに(*´ω`)b ってしまくるおじいちゃんめっちゃ可愛いでしょ笑
天使園で、握手で「わたし」を出迎えた時も腕をぶんぶん振ってたし。
(腕を振りすぎて聖人伝にぶつかった)

確かに 笑

ルロイ修道士たちの「キャラ」について、君はどんなふうに感じた?

うーん、「優しくてあったかい」感じかな。
ルロイ修道士も「わたし」も上川君も、みんな優しくてあったかい感じがする。

もし指言葉や握手がこの物語に出てこなかったら、同じ感じがすると思う?

…しないかも。
「わたし」は礼儀正しくて、ルロイ修道士のことを尊敬してて、ルロイ修道士は立派な人なんだな~とは感じるけど、どんなキャラクターなのかがめちゃくちゃぼやける感じがするね。

だよね!
私、指言葉があるからこそ、ルロイ修道士のかわいさや天使園のみんなの優しさ・暖かみが、読む人にはっきり伝わってくるんだと思う。
だから、指言葉は漫画のキャラ出しと同じ役割で使われているんだよ。

なるほど~。

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