【レポート】過去問読書会 麻布中学校 国語 2020年 「まだまだ、」(『つぼみ』所収)宮下奈都

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「まだまだ、」の解説・感想

この作品の印象をひと言で表すと、「まるで読み切りの少女マンガを読んでいるみたい」だと感じました。
さわやかな表現、親しみやすい設定で読みやすく、けれど主題を本当に理解するためには深い読みの力と想像力が必要とされます。
文章表現もキャラクター設定も主題も、とても素敵な作品だと思いました(^^)

②「まだまだ、」の主題の解説

私は、この文章(麻布中学校での出題部分)の主題を以下のように考えています。

最も大きな主題(テーマ)

→「自分らしさ」とはなにか。どうしたら「自分らしさ」を身につけることができるのか?

大テーマの中にある小テーマ

1,「紗英」と「さえこ」の違いと意味
2,「型を身につけること」の意味(=守破離(しゅはり)の知識)

→1と2の小テーマを理解することにより、大テーマが理解できるようになります。

1,「紗英」と「さえこ」の違いと意味

一言で説明すると…

人が「仮面をかぶること」についての話です。

具体的な説明

私たちは人と接する時、ありのままの自分をさらけ出すことはあまりしません。
たいていは何らかの「仮面」をかぶった状態…本当の自分とは違った態度、言葉遣い、心の持ち方で他人と接します。
この記事を読んでいるあなたも、初対面の人や気になる異性と話す時、親しい友人や家族と話す時とは違った態度や言葉遣いをしていませんか?

本文を読むと、紗英には「さえこ」という仮面があることが分かります。
細谷先生のシーンを読んでみると、「さえこ」がどんな仮面なのかが分かります↓
「わあ、このお花、上手ですねぇ、きれいですねぇ、なんて適当に褒めて逃げる」

しかし、「さえこ」の仮面を外した「紗英」は↓
「その花、面白くありません」

と、自分の本心をはっきり細谷先生に伝えるという行動をとりました。

紗英はどうして「さえこ」の仮面をかぶっているのか?

細谷先生に対して、紗英は本音で、つまり「自分らしい」意見で話すことができましたよね。
ならば、「自分らしさを見つけたい、自分らしく振る舞いたい」という紗英の願いは、この時点で達成されたと言えるのでしょうか?
達成されていないとすれば、どんなところがうまくいっていないのでしょうか?
ここを検討することが大テーマを読み解くためのヒントになるので、少し考えてみてほしいです。





細谷先生のシーンの後半部分にこう書いてあります。
①「演じてなんかいないんですよ」さえこの笑顔のままで、私はいった。
②「なんでこんなことになっちゃったんだろ」

→②の文から、紗英は自分の行動を後悔していることが読み取れますね。
そして①の文を読むと、紗英は途中から再び「さえこ」の仮面をかぶってしまっていることが分かります。

なぜ、紗英は途中から「さえこ」の仮面をかぶったのか?
それは、耐えきれなかったからなのだと思います。

人は仮面をかぶります。なぜなら、ありのままの自分を否定されるのが怖いからです。
ぜひ自分に置き換えて想像してみてください。
目上の人に本音をぶつけて、もし「それ、大したことないね。つまらないね。」みたいに否定されたら、あなたはどんな気持ちになりますか?

気持ちを込めないで適当に(=「さえこ」のように)言った言葉なら、否定されても耐えられます。
でも、自分のありのままの、本気の気持ちを込めた言葉を否定されたら、耐えられなくないですか?
このシーンの紗英も、それと同じ気持ちなんだと思います。

紗英は勇気をもって細谷先生に本音をぶつけました。
しかし細谷先生はその本音を認めてくれず「それはまた津川さんらしくない感想ね」と痛烈な嫌味で反撃をしてきました。

ありのままの自分を否定されると、人はとても傷つきます。自信を失います。
だから紗英は一度出した「紗英」を引っ込めて、「さえこ」の仮面をかぶらざるを得なかった
のだと思います。

紗英が自分らしい「紗英」でい続けるためには、どうしたら良いのか?

紗英は、なぜ細谷先生のシーンで「紗英」になりきれずに失敗してしまったのでしょうか?
どこがうまくいかなかったのでしょうか?


ひと言で言うと、「言い過ぎ」でしたよね。
華道部の顧問に対して、華道部員の活けた花を「面白くありません」と言うのは、喧嘩を売っているのと同じです。
いくらそれが本音であっても、言い方というものがあります。

もし、
「男子を勧誘しろなんて失礼じゃないですか?そんな先生から習いたいとは思いません。」
のように正当な理由を伝えていれば、細谷先生もここまであからさまな嫌味は言わなかったかもしれませんね。

自分がうまく意見を伝えられなかったことに、紗英自身も気づいています。
だから「なんでこんなことになっちゃったんだろ」(別に喧嘩を売りたかったわけじゃないのに…)と後悔をしたのだと思います。

これを読んでいるあなたにも、きっとそういう経験があるはずです。
誰かに一方的に何かを言われて、反論したいと思った。
でも自分の怒りをコントロールできなかったり、自分の気持ちを言葉に表しきれなかったりして、その人に理解してもらえなかった…。

紗英は、その「うまくいかなかった原因」を、「自分らしさ」にあると考えています。
自分にとっての「自分らしさ」が、自分でもよく分からない。
自分はどんなことを大切にして、どんな意見を持ち、何を軸にして生きているのか…それがはっきりしないので、自分の言葉に自信がないんです。※1
だから傷つかないよう、すぐ「さえこ」の仮面に逃げてしまう。


※1「私の『好き』なんて曖昧で、形がなくて、天気や気分にも左右される、実体のないものだと思う」に、自分に軸がなく自信を持てないでいる様子が書かれています。

つまり紗英が「自分らしさ」を追い求める理由は、「自分に自信を持ちたいから」なのだと考えることができます。
だから祖母のアドバイス↓
「型があんたを助けてくれるんだよ」

という言葉が、紗英の心に響いた
のだと思います。

2,型を身につけることの意味

一言で説明すると…

守破離(しゅはり)の話です。

具体的な説明

守破離は中学受験だけでなく、高校受験や大学受験でも頻出のテーマです。
この記事で知識を入れておけば似たテーマの文も短時間で理解できるようになるので、ぜひここで学んでいってください(^^)

守破離の説明は他サイトが詳しいので、以下にリンクを貼ります。
意味の理解はコトバンクの方だけで十分だと思います↓
もっと詳しく知りたい場合は、Wikipediaの方も参考にしてみてください。
コトバンク「守破離」(2022年5月22日最終アクセス)
Wikipedia「守破離」(2022年5月22日最終アクセス)

さて、上に書いた1で以下のことを説明しました。
・紗英は「自分らしさ」を求めている。

・しかし自分の中に行動や意見の基準となる軸(=譲れないもの、大切にしている価値観)がないため、否定されるとすぐに自信を失い、傷ついてしまう。

・その結果「さえこ」からなかなか抜け出せず、もがいている。

そこに登場したのが紗英の祖母です。
「型があんたを助けてくれるんだよ」というアドバイスが紗英の心に響き、紗英は活け花の型と向き合うことを決心します。

型を身につけることと、紗英の求める「自分らしさ」はどんな関係にあるのか?

端的に言うと、型は自信になります。
たとえば水泳でも野球のバッティングでも、基礎・基本となる型がありますよね。
算数の公式や解法パターンも型の一種です。

型を完璧に自分のものにして自由に使いこなすことができるようになれば、それは自信になります。
中学受験を志している皆さんなら、すでにその感覚が分かると思います。
「この単元のこのパターンなら、応用問題がきても解ける!」のような感覚です。

これは「自分らしさ」においても同じだと思います。
・自分はこれなら得意だ、これなら誰にも負けない
・○○に関してなら、誰に何を言われても譲れない強いこだわりがある


そういう自分の軸になるものを持つことができれば、他人に多少否定的な言葉を言われたとしても気にならないでしょう。
だって、その分野に関してはその人よりも圧倒的に詳しいし、好きだし、自信があるのですから。

紗英は活け花教室に通っていて、憧れの朝倉くんの活けた花に衝撃を受けました。
紗英の「思うように」をはるかに超えたところにある花…それを極めることで、自分の軸となるものを見つけられるんじゃないか、と予感しているのです。※2

※2「今は型を身につける時なのかもしれない。いつか、私自身の花を活けるために
→これは活け花に関しての守破離のことですね。

「さえこも紗英も今はいらない」
→ここがポイントです。活け花の守破離に、なぜ「さえこ」「紗英」の話が出てくるのか?
それは紗英が、活け花の型を使いこなせるようになった先に、自分らしさを身につけて、自在に使いこなせるようになるんじゃないか、と予感しているからです。
だから今はという2文字が、わざわざ書かれているのです。

「型を自分のものにしたい。いつかその型を破る時のために」
→上の文を受けての言葉なので、この文の「型」には二つの意味が込められているのだと思います。
活け花の「型」と、自分の生き方や価値観の「型」(←私の言葉で言うと「軸」)という意味です。

「まだまだ、」の主題のまとめ

本文の主題をまとめると、以下のようになります。
・大きなテーマ(主題)は「自分らしさ」
→自分らしさとは何なのか?自分らしさはどうすれば身につくのか?

・自分らしさを持てない紗英
→ありのままの自分をさらけ出そうとすると、うまく自分をコントロールできない。
自分の言葉や振る舞いに自信を持てない。
→それは、自分の中に軸となるものがないから。
自分の意見や価値観の「型」となるものを持っていないから。

・朝倉の花との出会い、祖母の言葉との出会い
→朝倉くんの花は自分の「思ったところ」を超えた領域にある。活け花に可能性を感じる。
もしかしたら活け花の「型」を極めれば、自由自在に使いこなせるようになれれば(=守破離の「破」や「離」の段階に至れば)、その先に自分の生き方の「型」も見つけることができるんじゃないだろうか?

まずは基礎や基本を完璧に身につける。
その先にだけ、本当の「自分らしさ」を見つけることができる。
これが「まだまだ、」に込められたメッセージなのだと思います。

おわりに

多少得意だからといって、基礎や基本をおろそかにすることは「型無し」です。
あなたは基礎や基本を繰り返すことの重要さを理解していますか?
自己を見つめ直し、他者と共にある自分に気付き、自分とは何者であるのか、何を大切にし、どのように生きていくのか、真剣に向き合う覚悟はありますか?※3
麻布中学校は、それを理解できている人と共に学びたいと考えています。

この入試問題と設問をとおして、受験生にそういうメッセージを投げかけているのだと、私は思います。

※3『麻布の教育』「麻布学園 麻布中学校 麻布高等学校ホームページ」

2022年5月22日 最終アクセス

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