【小論文の過去問解説①】都立日比谷高校 令和3年度(2021年度)

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こんにちは!
今日は都立日比谷高校の推薦入試(小論文)の過去問解説をしながら、日本のSDGsの進捗状況についてざっくばらんに書いてみます。

なぜSDGs?

実は今、中3生に小論文の授業をしています。
最近の教育業界ではSDGsがトレンド真っ盛りで、中学入試でも高校入試でも、このテーマについて非常に多く聞かれるんですね。
温暖化、発電エネルギーバランス、森林保全、ジェンダー平等などなど…。

でも先日友人と話していて思ったんですが、私たち世代の人にはSDGsってあまり馴染みがないと思うんです。
名前は聞いたことあるけど詳しくは知らない…みたいな。

今せっかく公式資料や統計を読みながらSDGsについて教えているので、ついでにその内容をブログにしたら面白いかも?と思い、今日の記事を書いてみることにしました!

【ざっくり解説】SDGsって何ぞや?

まず、SDGsって何ぞや?ということについて説明します。
SDGsというのは国連が定めた17個の目標で、正式名称はSustainable Development Goalsといいます。
日本語に訳すと「持続可能な開発目標」という意味になります。

SDGs = Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標

これ、どういう意味かというと…
今までの世界はイギリスの産業革命以来、大量生産&大量消費で来ていたんですね。
でも、たとえば森林を切り過ぎちゃったりとか、石油を掘りまくったりしちゃうと、それは持続可能な開発ではないわけです。
いつか資源が尽きてしまうし、温暖化もどんどん進んでしまう。

だから、「これからもずっと人類が生存できるように、いろいろな資源を大切にしながら発展していくべきだよね 。今までみたいに、使い捨てで大量生産&大量消費、みたいなやり方じゃダメだよね」
ということで、2015年にこの目標が定められました。
日本を含む国連加盟国のすべてが、2030年までに、SDGsで定めた17個の目標(Goals)をクリアしなければいけません。


さて、ここで日比谷高校(令和3年度)の小論文の問題を見ていきましょう。問1はこんな感じです。

(問題は日比谷高校の公式サイトからダウンロードできます。問2は図を読み取りながら考える問題なので、ぜひ見てみてください!)

問題

2015年、国連加盟国により、持続可能でよりよい世界の実現を目指すための国際目標(SDGs)が採択された。
2030年までに達成すべき17の目標と、その目標達成のための169のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人として取り残さない」ことがスローガンとして掲げられている。下の問1、問2に答えなさい。

図 1 Sustainable Development Goals(国連広報センター)

問1:

図1にある、SDGs の各目標の背景には複雑な要因があり、相互に影響し合っている。
また、様々な問題を同時に解決することを目指しており、ある目標を達成するために別の目標の達成を犠牲にすることはできない。

仮に、「2 飢餓をゼロに」という目標に対して「農地を増やす」という解決策を考えたとする。
これにより良い影響が及ぶと考えられる目標と、悪い影響が及んでしまうと考えられる目標をそれぞれ1つずつ示し、その理由を120~140字で説明しなさい。


で、私が作ってみた解答例がこんな感じです。↓

問1の解答例:

「1貧困をなくそう」に良い影響が及ぶ。農地を増やすことにより農業収入を得られる人が増え、その人達の経済状況が改善するからだ。
反対に、「15陸の豊かさも守ろう」に悪い影響が及ぶ。農地を増やすために森林が切り拓かれ、そこに住む動物たちの生態系が破壊されるからだ。
(129字)


ワンポイント解説(授業で教えたこと)

この問題の意図を一言で解説すると、

「SDGsの目標を達成するのって、簡単なことじゃないよ。単純に考えないでね。」

ということを言っています。

高校の先生から受験生へ「社会課題がそんなに単純なものだと思うなよ」っていう、メッセージが隠されているんですね。
そこがポイントです。

受験生にありがちなパターン

受験生にありがちなのが、たとえば、

「戦争をなくすためにどうしたらいいですか?」
という問いに対して、

「相手の気持ちを思いやる心を持つべきです」

みたいに答えちゃう生徒が、結構いるんですね。
これってめっちゃ浅いじゃないですか。
自分の頭で考えられてないですよね。

日比谷高校の先生からの、「どこかで聞いたような耳障りのいい答えを書くんじゃないよ。ちゃんと自分の頭で考えなさいよ」というメッセージが、この問題の裏に隠されています。

日比谷の小論文は問2がメインです。
問1の出題意図を理解できていると、問2でも質の高い解答を作ることができます。

では次に、問2についても考えていきます。

問2:

SDGsは世界共通の目標であるので、すべての目標を達成するためには国家間の協力が不可である。
日本は主要国として他国の目標達成に寄与することも求められ、積極的にSDGsモデルを発信・展開していく必要がある。
図2、図3から、現在の日本が世界をリードしてその取組を発信できる目標を示しその目標を選んだ理由及び、具体的に日本がどのような取組を行い国際社会に貢献していくことができるのか、あなたの考えを420~460字で説明しなさい。


問2で答えるべきことは3つあります。
1つ目は、現在の日本が世界をリードしてその取り組みを発信できる目標を示すこと。
2つ目は、その目標を選んだ理由を書くこと。
3つ目は、具体的に日本がどのような取り組みを行って国際社会に貢献していくことができるのかを書くことです。

SDGsの中で、日本の得意な分野は?

図2を見ると、SDGsでの日本の得意分野が分かります。
これは2020年の時のデータなんですが、日本が得意なのは、

4 質の高い教育をみんなに

9 産業と技術革新の基盤を作ろう

16 平和と公正をすべての人に

となっています。
それぞれざっくり、どんな目標なのかというと…

4 質の高い教育をみんなに

4番は大学のような高等教育よりも、初等・中等教育に重点をおいた目標です。
「みんなに」のところが大事なんですね。

経済状況や生まれた地域によって差のない義務教育を受けられる
ところが、日本は世界的に評価されています。

アメリカやヨーロッパなどの教育は先進的だと言われますが、スラム地区の学校は悲惨だったり、高等教育か手に職か、の振り分けが日本よりずっと早い国もあったりしますからね。
(少し古い記事ですが、ドイツの場合は10歳くらい時点の学力で大学ルートか職業訓練ルートかが決まるそう。↓)

9 産業と技術革新の基盤を作ろう

9はインフラのことです。
日本は道路や橋みたいなインフラの構築とか、災害からの電気・ガス・インターネットの復旧とかが得意なので、そこが評価されているみたいです。

16 平和と公正をすべての人に

16は戦争や暴力がないことです。あとは、警察や政治家への賄賂が少なくて、比較的公平に社会的な資本が享受できることです。

日本では、道を歩いていて突然強盗に襲われる、みたいなことはめったにないです。
警察官にお金を渡して見逃してもらう、なんてこともできないですよね。
日本は世界的に見ても治安が良く、理不尽な暴力の少ない国だといえます。


で、私が書いた解答例がこんな感じです。↓

問2の解答例:

私は、日本が世界をリードして取組を発信できる目標は「9産業と技術革新の基盤をつくろう」だと考える。
その理由は三つある。
一つめは日本が既にこの目標を達成しているからだ。このことから、日本がこの領域に強みを持つことが分かる。
二つめは日本が2019年にこの目標を達成したからだ。目標を達成したばかりということは、日本はこの領域の課題解決に関して新しい知見を持っていると推測できる。
三つめはこの目標の達成が他の目標の達成にも大きく寄与するからだ。道路や橋などのインフラが整うことは、他の多くの目標達成のための前提条件になっている。
日本が強みと新しい知見を持っていること、そして他の目標と比べて優先度が高いことから、私は9の目標を選ぶ。

日本は地震や台風などの災害が多発する国だ。そのため、災害からインフラを復旧させるための高い技術を持っている。
私は、日本がこの技術やノウハウ、人材を海外に提供することで、9の目標について国際社会に貢献できると考える。
(423字)


ワンポイント解説 ~小論文は採点官への手紙だと思え~

この問題、一見、「4 質の高い教育をみんなに」を選んでしまいがちです。
でも多分、4番を選ぶべきじゃないと思うんですよね。
何でかというと、4番を選ぶと単純すぎる解答になってしまうからです。

「日本は2018年以来ずっと4番の目標を達成できているため、私はこの目標を選んだ。そして日本は義務教育が充実しているので、その取り組みを他の国に発信していくことで国際社会に貢献できる」
という書き方は、4番を選んだ理由も含めて論理が単純すぎます。

でも問1を見ると、出題者は「物事をそんなに単純に考えるなよ」って言っているわけです。
なので、「私はこの目標について多面的な視点から、きちんと自分の頭で考えて書きました!」というメッセージを出題者に伝える必要があります。

小論文を採点するのは機械ではなく、この問題を作った先生だからです。
小論文は単なるペーパーテストとしてではなくて、採点官との文通をイメージして書くと、的を外さずに書くことができるんですね。

そうすると、2018年からずっと目標を達成し続けてきた4番ではなくて、未達成の段階から達成に変わった9番、16番をテーマに選ぶ方が、出題者の意図に沿った解答を書きやすくなる、というわけなんです。

【教えてみた感想】今どきの中学生、世の中のことを勉強してる!

この過去問を解いてみて、日本の得意なことや不得意なこと、そして世界から見た日本の状況について知ることができて、面白いなと思いました。

特に日本は、
・5ジェンダー平等
→学歴格差、男女の正規 / 非正規雇用の比率の格差、管理職や政治家の比率etc.

12つくる責任つかう責任(2022年に悪化)
→日本で買い物をすると、とんでもない量のプラスチックごみが出ますよね…。

・13気候変動に具体的な対策を
→発電のほとんどを化石燃料に頼っているから?

・14海の豊かさを守ろう
→魚の獲りすぎ?海洋プラスチックごみ?

・15陸の豊かさも守ろう
林業を営む世帯や企業の減少、低い木材自給率

というのが特に苦手みたいですね。

それに意外だなあと思ったのが、

2飢餓をゼロに

とかも苦手なんですね。
コンビニやスーパーから大量のフードロスが出ていますもんね。

反対に、悪く言われることの多い
・4 質の高い教育をみんなに

が世界的に評価されていたりしました。
中国やイランも、この項目が評価されているんですね。

逆にアメリカやドイツ、そしてイギリスが、教育についてあまり評価されていなかったりします。
SDGsについて調べる中で日本の良い面悪い面を改めて知ることができて、勉強になったなぁと思いました。

★今日のまとめ★

◆SDGsとは

国連が2015年に決めた17個の目標。国連加盟国は2030年までに達成しなければいけない。

◆SDGsの目的

持続的な開発を目指すため。
・大量生産・大量消費・使い捨ての世界から抜け出そう!
・孫の代、ひ孫の代まで人類が住み続けられる豊かな地球を残していこう!

◆日本が得意なこと

・4 質の高い教育をみんなに
・9 産業と技術革新の基盤をつくろう
・16 平和と公正をすべての人に

◆日本が特に苦手なこと

・5 ジェンダー平等を実現しよう
・12 つくる責任つかう責任
・13 気候変動に具体的な対策を
・14 海の豊かさを守ろう
・15 陸の豊かさも守ろう
(17番はすべての目標をまとめた大きな目標みたいな感じなので、省きました)

◆小論文の問題を解く時のポイント

・問題文の背後に隠された、出題者のメッセージを考えること。
高校の先生は、この問題を解いているあなたに「何を考えてほしいと思っているのか?」を読み取ることが大切。