こんにちは!
都立高校の推薦入試の問題を読みながら、SDGsについて学んじゃおうという企画の第二弾。
今日は都立青山高校の過去問を解いてみようと思います。
そもそもSDGsって何?という人は、ぜひ前回の「日比谷高校編」を読んでみてください!
今日のテーマ:日本の発電エネルギーバランス ~2030年までにCO2を減らすには?~
今回解くのは平成30(2018)年度の過去問で、テーマは「温暖化対策と発電」です。
(問題用紙は都立青山高校の公式サイトからダウンロードできます。資料やグラフも載っているので、ぜひ見てみてください!)
問題:
中学生のAさんは資料1を読んで、日本がCO2などの温室効果ガスの排出量を削減するという課題を持っていることを知った。
Aさんは、日本のエネルギーに関する統計などを調べて、資料2~資料4にまとめた。
これらの資料を基に、
①1970年度から1980年度の期間をaとし、2010年度から2015年度の期間をbとして、それぞれの期間における日本のエネルギー別発電量の推移について、背景を含めて述べなさい。
また、
②2015年度よりも総発電量を下げることなく、パリ協定に基づいた日本の目標を達成するためには、発電においてどのような取り組みが必要となるか、資料3からあなたが実現性が高いと考える具体的な発電方法を取り上げ、その根拠などを含めて、あなたの考えを述べなさい。
なお、①と②は番号を振らずに続けて記述し、文字数は合わせて300字程度とする。
資料1:パリ協定
2015年末の気候変動に関する国際会議(COP21)において、産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えることや、すべての国がCO2などの温室効果ガスの排出削減目標を作成することに合意する「パリ協定」が採択された。日本政府は「地球温暖化対策計画」を発表し、CO2排出量を2030年度までに現在よりも大きく減らすことを目指すことにした。
資料2:日本のエネルギー別発電量の推移
(※問題用紙には、データが棒グラフで示されています。)
資料3:資料2にあるエネルギー別発電の主な長所・短所のまとめ
(※問題用紙には、これらの発電方法の長所・短所が書かれています。)
【エネルギー】
・水力
・石炭
・石油
・LNG(天然ガス)
・原子力
【新エネルギー】…※1
・風力
・太陽光
・地熱
・バイオマス
※1…化石燃料によらない再生可能なエネルギーのうち、その普及のために支援を必要とするもの。
技術的には可能だけれど効率が悪い(設備の建設や発電にお金がかかる)ために、普及がまだ十分でない発電方法のこと。
例)太陽光発電、地熱発電、バイオマス発電 など
資料4:日本国内の水力、新エネルギー発電量に占める各エネルギーの比率
(※2016年度のデータが帯グラフで載っています。)
・水力…51%
・太陽光…33%
・バイオマス…11%
・風力…4%
・地熱…1%
この問題は、
SDGs目標の7番「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
SDGs目標の13番「気候変動に具体的な対策を」
に関する出題です。
で、私が授業の時に作ってみた解答例がこんな感じです。↓
※解答の中の( )の部分は、この記事を読みやすくするためにつけた補足です。
解答例:
日本のエネルギー別発電量について、期間a(1970~1980年)では石油の割合が減った反面、原子力の割合が増えた。これは石油危機が起きたためだ。
日本は当時、発電に使う石油の輸入を中東に頼っていた。しかし中東戦争によって輸入が困難になり、他の手段での発電を迫られた。そこで、原子力発電が推進された。
しかし期間b(2010~2015年)では原子力の割合が急減し、それに伴い総発電量が約15%減少した。これは東日本大震災によって原発事故が起きたためだ。(資料の説明…199字)
私は新エネルギーと原子力を組み合わせるべきだと考える。
まず、石炭や石油を新エネルギーに置き換えていく。たとえば太陽光発電は一般住宅にも装置の設置が可能なので、これから作られる住宅に設置を義務付ければ発電量を大きく増やすことができる。
(資料を踏まえた「あなたの考え」 その①…116字→合計315字)
しかし太陽光発電には、夜間や悪天候時に発電できないという弱点がある。
この弱点を補うために、安定的な発電が可能な地熱発電が利用できる。
(考えのデメリットを補う…65字→合計382字)
しかし地熱発電所を建設するには時間がかかる。それまでに足りない発電量は原子力で補うべきだ。
確かに、原子力発電所で事故が起きれば深刻な被害が出る。使用済燃料の問題もある。しかしこれらの問題は、技術的な対処や話し合いによって解決できる可能性がある。
あと七年で新エネルギーの技術に革命が起こるという保証はない。そのため短期的に原子力発電所を再稼働することが、総発電量を下げずに二酸化炭素排出量を大きく減らす、最も現実的な方法だと私は考える。
(資料を踏まえた「あなたの考え」 その②…218字→合計600字)
太字の部分が、資料からの引用&採点基準になっている部分です。
字数指定は300字なんですが、今年の生徒の受験校の字数指定が600字だったので、それに合わせた解答例になっています。
(授業で教えたことをそのまま書き起こしているので、青山高校用の模範解答が読みたかった方には申し訳ありません!資料の読み取り方や次章の「ワンポイント解説」は役に立つと思うので、そこだけでも参考になればと思います。)
ワンポイント解説:「あなたの考え」にオリジナリティを出し過ぎない
今回の授業では、「あなたの考え」の書き方に重点を置いて教えました。
ここはオリジナリティや知識の豊富さではなく「資料と結びつけて自説を展開できているか」が見られています。
ありがちな減点パターン
受験生にありがちなのが、
私は地熱発電を普及させるべきだと考える。
地熱発電にかかる建設費用は、発電の過程で得られる熱を温水プールなどに利用して、利用料を得ることでまかなうことができるだろう。
みたいなパターンです。
減点というよりは、加点にならない言葉で字数を消費してしまうパターン。
この書き方の良くないところは2つあります。
良くないところ①:真実性が疑わしい
一見正しそうな意見なんですが…「地熱発電で得られる熱を本当に温水プールに利用できるのか?」は、素人には判断できません。
明らかに事実と違うことを書くと減点されますが、その「明らかに」がどの程度なのか、受験生には判断ができません。
入試は「一点でも減点されたくない」というシーンなので、確実性のないことを根拠にする癖はつけない方がいいんですね。
良くないところ②:資料を引用していない
入試問題には、必ず「資料を活用して」という条件がついています。
・資料に書いてある情報を的確に読み取れるか
・情報から課題を抽出できるか
・課題を踏まえて意見を言えているか
というように、論理的な思考力や表現力を見られているからです。
資料にないことを基に意見を書いてしまうと、この採点基準から外れる危険性が高くなります。
そのため、意見はできる限り資料を引用しながら書く必要があります。
資料の言葉を引用して書けば、良くないところ①の「真実性」の問題もクリアできます。資料に書いてあることは、その高校の先生が「事実」だと認めたことだからですね。
なので、この解答例ではできる限り資料3「エネルギー別発電の主な長所・短所」に書かれている言葉を引用しながら意見を書きました。
別に私が原発推進派というわけではなくて、小論文に使いやすい言葉が載っていたのでそれを利用した、という感じです!
【解いてみた感想】発電の仕方、意外と知らないことが多かった!
・発電エネルギーの変化は、歴史上の出来事と関係している
→ 石油価格の変化とかだけではなくて、戦争とか事故とか、そういう歴史上の出来事がきっかけになって発電の方法が変わっているんですね。
最近、ウクライナの戦争があって原発再稼働の議論が再燃しています。今もまた、発電エネルギーの歴史の転換期なのかもしれないですね。
・石油の火力発電はコストが低そうだけど、他のエネルギーと比べて特に戦争リスクが高い
→ 石油は産出国が限られているので、戦争が起きると一気に供給が絞られて、価格が上昇しやすいんですね。
最近はアメリカでも石油が大量に採れるようになったので、中東戦争の頃と比べればまだマシなのか…?
・風力は良さそうだけど、騒音問題が課題。発電量も不安定。
・洋上風力は発電量が大きくて騒音問題も解決できるけど、まだ技術的に難しい
→ 日本は海に囲まれているので、なんとか洋上風力を実用化できるといいです。
・太陽光発電は、日本の新エネの中で断トツで進んでいる
(2016年時点で、新エネの約7割が太陽光発電。2022年でも63%)
→ 太陽光発電が普及しているのは知ってたんですが、新エネの中でこれほど断トツだったとは知らなかったです。
・バイオマスも結構頑張ってる
(同20% 。2022年では30%に上昇してる)
→ 最近になって割合が増えてきているので、期待できる電力源なのかもしれない!
・地熱は安定的に発電できてポテンシャルが高いんだけど、開発が全然進んでない(同1% 。2022年でも同じくらい)
→ 候補地の多くが温泉地周辺や国立公園周辺にあって開発が難しく、建設に時間がかかるんだそうです。
★今日のまとめ★
◆発電エネルギーバランスの変化の歴史
・1970年~80年代までは石油による火力発電の割合が高かったが、中東戦争による石油危機がきっかけで、原子力発電への置き換えが進んでいった。
(あと石炭の火力発電も増えた)
・2011年には東日本大震災による原発事故があり、原子力発電の割合が急減した。
LNGに置き換えが進んだが、総発電量は15%ほど減った。
◆新エネは、うまくいっているものといっていないものがある
・新エネの大部分が太陽光。ついでバイオマス。地熱は全然増えてない。
◆CO2削減を優先するか、原発リスクの回避を優先するか、日本は難しい選択を迫られている
・2030年までに、発電量を維持しつつCO2を大きく減らす現実的な方法は、まだ見つかっていない
→新エネの普及策とともに、原発の再稼働とも向き合う必要がある。